研究概要 |
E1遺伝子に変異を持つアデノウイルスは,癌細胞特異的に増殖して癌細胞を融解し,最近の欧米での臨床治験でも注目すべき成績を示している。胆嚢癌は,多くは進行期に発見され根治の難しい予後不良な癌であるが,遺伝子治療の研究は乏しい。本研究では,胆嚢癌に対するE1変異アデノウイルスとそれを応用した遺伝子治療の有効性と安全性を実験的に解析した。初めに,E1変異ウイルスが胆嚢癌細胞内で選択的に増殖し,癌細胞を融解壊死する一方,正常細胞内ではその増殖と細胞障害性が顕著に抑制されることを明らかにした。次いで,E1変異ウイルスが胆嚢癌のヌードマウス皮下移植モデルでは腫瘍の増大を抑制し,腹膜播種モデルでも転移巣内で増殖し生存期間を延長すること,また抗癌剤5-FUの併用によりさらに抗腫瘍効果が増強することを明らかにした。さらに,本ウイルスに抗癌剤5-FUを代謝活性化するUracil phosphoribosyl transferase(UPRT)の遺伝子を搭載したウイルスの抗腫瘍効果を検討し,本ウイルスを基盤とした増殖型遺伝子治療への応用を探った。その結果,UPRT遺伝子搭載E1変異ウイルスは,癌細胞特異的にUPRTを著明に発現し,in vitro, in vivoにて胆嚢癌の5-FU感受性を,従来型のUPRT発現非増殖型アデノウイルスに比し著明に増強することが判明した。癌の化学療法の最大の障壁である癌細胞の抗癌剤に対する耐性を遺伝子治療により克服する「遺伝子化学療法」の基盤ウイルスとして有効と考えられる。以上より,胆嚢癌に対する癌特異的増殖型E1変異アデノウイルスおよびそれを用いた遺伝子治療の実験的有効性と安全性が示された。
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