研究概要 |
内視鏡下経乳頭的に採取した膵液において沈渣のみでなく上清からもDNAを抽出して,p53分析を試み,膵癌診断における膵液中p53分析の有用性を検討した.膵癌におけるP53変異の陽性率は膵液上清で43%(9/21)であるのに対し,膵液沈渣では29%(6/21)であった.上清,沈渣いずれかの陽性率は57%(12/21)に達した.しかし,慢性膵炎16例では,上溝,沈渣いずれでも総て陰性であった.また,膵液細胞診との対比では細胞診陰性群の47%、(7/15)に膵液中p53,変異陽性例がみられた.さらに,血漿中p53変異の分析を試みたところ,2例に陽性例が認められ,膵液中p53変異陽性群の16%に該当した.以上のごとく,膵液中p53変異の検出率は沈渣よりも上清で高く,沈渣のみならず上清でも検討することにより膵液中p53変異の検出率が向上する,また,p53変異の癌特異性は非常に良好である. 同様に膵液においてmesothelin mRNAの発現を検討し,膵癌診断における有用性を検討した.膵液中mesothelin mRNAの陽性率は膵癌で47%(7/15),慢性膵炎で5%(1/20),膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMT;過形成か腺腫)で45%(5/11)であった.但し,慢性膵液やIPMTでは膵癌に比して,出現強度は弱かった.膵液のmesothelin mRNAの発現と膵癌の腫瘍径や病期分類との間には関連性は認められず,小膵癌や早期膵癌にも陽性例が認められた.一方,過形成か腺腫であったIPMTにもかなりの陽性例がみられ,膵腫瘍の良悪性の鑑別診断には問題は残るが,今後定量的な検討にてこの様な問題は克服できると思われる.
|