研究概要 |
H.pylori感染症は、日本単独でも6千万人以上、全世界で20億人以上の感染者が存在し、随伴疾患に要する医療費は莫大である。感染者の胃炎の病型は多様であり、その予後は感染菌株の遺伝子型のみならず、宿主因子により決定されるがその詳細は不明である。世界的に宿主応答の研究は適切なモデルが存在しないため遅れている。我々はH.pyloriが炎症性サイトカインの産生を介して上皮細胞のHLA class-II分子の発現を誘導すること(J Lab Clin Med1997)H-pylori臨床分離株から、炎症惹起性新規膜蛋白遺伝子(HP-MP1)を単離し、その遺伝子産物がヒト単球を刺激し炎症性モノカインの産生を誘導すること(Infection and Immunity,1999)、またHP-MP1が発がんにおいて果たし得る新たな機能を見いだした(Cancer Res.2001)。一方ヒト胃に於ける感染局所の宿主免疫反応を解析し(J Gastroenterol,1999)、マウスのH.pylori感染モデルを用いて、胃粘膜におけるH.pyloriの定着制御に炎症細胞浸潤が必要であり、それらは抗原感作されたTリンパ球が制御していることを発表した(Gastroenterology,2000)。今年度は感染局所において宿主の免疫・炎症反応の質的・量的反応の差が、感染胃粘膜上皮の再生・分化に如何なる影響を及ぼすのか、定量的に評価できる疾患モデルを作成した。即ち、卵白アルブミンに特異的なT細胞抗原受容体遺伝子を強制発現し、IL-4,IFN-gamma,IL-12遺伝子に各々欠失を有する宿主に卵白アルブミン蛋白を胃粘膜局所に注入して惹起される胃炎の組織病理を定量的に評価した。特定の免疫反応を有する宿主では胃粘膜上皮細胞のアポトーシスと細胞増殖、また化生性変化が相関して起きたことより、宿主の免疫炎症反応の質的・量的差異により組織学的胃炎病理に差が生ずることが判明した。即ち、H.pylori感染胃炎の予後決定に関おいて宿主反応が独立した決定因子であることが示唆された。
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