研究概要 |
胃癌の克服は長らく国民衛生上の重要課題であり、その前癌病変である慢性胃炎は、日本人の約半数が感染しているHelicobacter pylori(H.pylori)により惹起される。慢性胃炎の重症度や予後を決定する感染菌側の候補遺伝子が幾つか同定されてきたが、慢性胃炎の多様性とこれらの候補遺伝子との関係は必ずしも明らかではない。通常、発癌迄に組織学的炎症は数十年経過しており、感染菌の毒性に依存した、細菌感染症の急性病原性モデルでは、H.pylolri慢性感染成立後長期間を経て起こる組織の委縮性変化や再生上皮の脱分化などの個体間の多様性の説明が困難である。そこで、感染宿主の免疫・炎症反応の個体間の差違が、組織学的胃炎の多様性と組織の再生・分化に如何に関わるか検討した。私はこれまでに、感染患者の胃粘膜に於ける免疫反応の特徴について、幾つかの知見を発表している。それらの知見に基づいて、より詳細な解析が可能となるH.pylori胃炎モデルを作成し、その炎症反応を解析するとともに、ヒトの胃生検組織の浸潤細胞、産生サイトカイン、臨床病型の解析を行った。粘膜浸潤細胞の主体をなすCD4T細胞が産生するIFN-gammaが粘膜上皮に対する自己抗体と相俟って、組織障害作用を持つこと(Helicobacter 2003),胃粘膜に浸潤するTh1細胞が産生するサイトカインが粘膜上皮細胞の細胞回転と細胞死を調節していること(Biochem Biophysial Res Comm 2004)胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍を合併する患者で、前庭部胃粘膜組織に浸潤するT細胞の機能に差があることを明らかにした(Scand J Gastroenterol 2005)。これらの研究は、将来胃粘膜萎縮が進行する、発癌高リスク患者を同定するための生物学的マーヵを明らかにする上で重要な知見であると考える。
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