研究概要 |
肝癌に対する遺伝子治療の確立を目指し、肝癌の発生・発育に重要な役割を演じている分子を同定するために、種々の基礎的検討を行い、以下のごとき成果を得た。 まず、肝癌のモデル動物であるLECラットを用いて、肝癌発生における細胞周期関連分子の関与を検討したところ、慢性肝炎および肝癌周囲の非癌部組織に比較し、肝癌ではサイクリン依存性キナーゼ(Cdk)4とp46 Shcの発現が上昇し、リン酸化Rb蛋白質の増加がみられた。一方、cyclin D1およびCdk6の発現は、慢性肝炎から肝癌への進展過程において有意な変動を示さなかった(Int J Oncol 24:1205-1211,2004;Int J Oncol 25:1089-1096,2004)。さらに、ヒト肝癌とその周囲の非癌部肝硬変におけるCdk inhibitorの発現を検討したところ、肝癌内においてはp18^<INK4c>発現が減弱しており、p18^<INK4c>発現陰性の肝癌患者の予後は有意に不良であることが示された(Hepatology 40:677-686,2004)。したがって、肝癌の発生を防止し、肝癌患者の予後を改善するためには、肝におけるCdk4あるいはp46 Shc発現を抑制し、同時にp18^<INK4c>発現を増強させるがストラテジーが有効であることが示唆された。 我々はすでに、肝癌発育には血管内皮増殖因子(VEGF)の発現が必須の因子であることを報告しているが、本年度の検討において、肝癌内のVEGFレセプター発現を抑制すれば、肝癌の発生と発育を抑制できる可能性を示した(Hepatology 39:1517-1524,2004;J Hepatol 41:97-103,2004)。さらに、組換えアデノウイルスは、in vivoにおける肝細胞への遺伝子導入効率の高さから、肝を標的とした遺伝子治療に適したベクターであるが、遺伝子の再導入・再発現が困難であることが、臨床応用の大きな障害となっている。我々は、組換えアデノウイルスの投与ルートとして胆管に注目し、ラットの総胆管より組換えアデノウイルスを逆行性に注入したところ、肝における有効な遺伝子発現の誘導が可能であり、さらに、組換えアデノウイルスをラット胆管内に反復注入すれば、肝における遺伝子発現も反復性に誘導されることを示した(Gut 53:1167-1173,2004)。 本年度の研究成果より、肝癌の遺伝子治療の標的となりえる分子が判明してきており、また、実際的な肝への遺伝子導入ルートも解明された。今後はこれらの分子の発現を遺伝子レベルで制御することによって、肝癌の発生および発育を阻止しえる遺伝子治療の可能性を検討していく予定である。
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