研究概要 |
平成16年度には,KL-6が特発性間質性肺炎患者や肺癌患者の臨床的予後因子として如何なる意義を有しているかに関する検討および細胞機能へKL-6が及ぼす影響を検討した。 特発性間質性肺炎患者の臨床的予後因子としての検討としては,数年来継続してきた全国の呼吸器疾患専門診療施設数施設による共同研究として,血清KL-6値が特発性間質性肺炎の予後因子として臨床的意義があるかどうかについて成績の集計を行い,投稿した。 MUC1の細胞外ドメインには60bpの繰り返し配列(tandem repeat)があり、多型が存在する。そこで、担癌患者の白血球からMUC1のtandem repeatの長さを測定し、予後との相関を検討した。肺癌患者と非担癌者と検討した結果、肺腺癌患者は非担癌者と比較してMUC1の長さが長く,MUC1の長い腺癌患者程有意に予後不良であった。 系統発生学的研究としては,肺の発生過程におけるKL-6の出現時期、分布などを免疫組織学的に調査した。KL-6を含めた7つの抗MUC1抗体で免疫染色(ABC法)を用いて胎児肺を調べたところ、陽性細胞の出現時期、分布に差を見出した。胎生期の全期間を通じて広範囲に大量に存在するMUC1は,KL-6、NCL-MUC1で、発生過程全期間にわたる必須のMUC1と推測された。HMFG2、H9は発生初期の気道の先端部に陽性となり、さらにこの部分が肺胞へ分化し肺胞が完成された時期には肺胞上皮のみに陽性であった。 霊長類において、どの霊長類で血清KL-6が産生されたかを調べることは、肺の進化を考える上で重要な課題と考えられる。そこで,12種類の霊長類で血清中のKL-6値を測定した。ニホンザルには存在せず,オランウータン,チンパンジーのみにKL-6が存在していることがわかった。KL-6は進化の過程で獲得され、ヒトに存在していることがわかった。
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