現在、肺線維症の進行を抑制する治療法は確立されていない。我々は、線溶系をその治療に応用することを目指し、線溶系と肺線維化の関係を検索してきた。過去に、線溶系が抑制された状態では肺の線維化が進行し、線溶系の賦活化により線維症が抑制されることを明らかにしてきたのであるが、今回は、肺のみにウロキナーゼを発現誘導しうるトランスジェニックマウスを作成し、このマウスがブレオマイシンによる肺の線維化に抵抗性があることを示した。この結果は、線溶系の賦活化により線維症が抑制されることのさらなる証明となった。この現象を説明しうる具体的なメカニズムは不明であるが、フィブリノゲンノックアウトマウスにおいてもコントロールと同様のブレオマイシンによる肺線維症が誘発されることより、線溶系によるフィブリン溶解作用以外の機序が関わっていることは示唆された。今回、我々は、線溶系が、肺胞上皮細胞の増殖促進因子であるHepatocyte growth factor(HGF)の肺内における生物学的活性を高めることを見出し、線溶系が肺の線維化を抑制する機序のひとつにHGFを介した経路があることを提唱した。また、ウロキナーゼの気管内投与が、ブレオマイシンによる肺線維症の進展抑制に効果があることも示し、肺線維症の治療に線溶系を応用することが可能であるとの確証を得た。これらの結果を基に、ネブライザーを用いて、マウスへのウロキナーゼ遺伝子及び蛋白の導入を図り、ブレオマイシン肺線維症の抑制を試みたが、残念ながら期待通りの導入効率を得られないことが判明した。今後は、吸入方法の改善、アデノウィルスを用いた遺伝子治療、さらにラビットなどの大動物の利用も視野に入れて、肺内の線溶系を賦活化する方法を模索し、肺線維症への治療応用を目指した研究を推し進めていく予定である。
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