厚生労働省難治性疾患克服研究事業「運動失調に関する調査及び病態機序に関する研究」班による全国統計によると、我が国の脊髄小脳変性症は70%が非遺伝性疾患であり、残り30%が遺伝性疾患により構成されていると推定される。先の研究で我々は遺伝性脊髄小脳変性症において、SCA14の当該遺伝子座の位置を決定した。SCA14は第19染色体長腕末端即側19q13.4に位置しており、国内外の研究によりprotein kinase C γサブユニット(PKCG)第4エキソン領域のミスセンス変異による疾患であることが明らかにされた。PKCG遺伝子は神経系では小脳プルキニエ細胞と脊髄に発現しているが、ミスセンス変異により選択的な神経細胞脱落変性をきたす機序については不明である。また、SCA14が遺伝性脊髄小脳変性症に占める頻度についても不明である。 そこで、我々は今年度の研究において病因遺伝子が不明である遺伝性脊髄小脳変性症を対象に、同様のPKCG変異の有無を検討したが、新規変異や新たな罹患例を見いだせなかった。すなわち、SCA14は稀な疾患であることが明らかになった。PKCGはイノシトール-リン脂質系細胞内シグナル伝達に関与しているタンパクであるが、この伝達系においてはphosphlipase C β4(PLCβ4)も構成要素の一つである。PLCβ4ノックアウトマウスは運動失調を呈する。すなわち、PLCβ4はヒト脊髄小脳変性症の新たな候補遺伝子といえる。そこで原因不明の遺伝性脊髄小脳変性症において、PLCβ4遺伝子のエキソン全長について変異の有無を検討したが、今回の検討では疾患と相関するものは検出されなかった。SCA14の発症機序に関する研究に関しては、PKCGのノックインマウスを作成中である。今後はモデル動物をもとに、神経病理、発現遺伝子の変化などを検討して病態解明に関する研究を行う予定である。
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