我が国の脊髄小脳変性症は30%前後が遺伝性疾患よりなる。その中から我々は連鎖解析により新規遺伝子座をSCA14として第19染色体19q13.4上でD19S206-D19S605に区画された10.2cMの範囲に決定した。SCA14は小脳性運動失調が主症候であり、画像診断では小脳萎縮を呈するが脳幹萎縮を呈さない。我々の報告についでSCA14は北米からも報告され、病因遺伝子がprotein kinase C Gamma (PKCG)の点変異によることが報告された。自験例では同じエキソン部位に新規のミスセンス変異が認められた。現在までにSCAで報告されたPKCG変異は、総てregulatory domainのミスセンス変異である。PKCGは脳と脊髄、特に小脳のプルキニエ細胞や顆粒細胞に発現している。我々は病因遺伝子が不明である遺伝性脊髄小脳変性症を対象に、同様のPKCG変異の有無を検討したが、新規変異や新たな罹患例を見いだしていない。すなわち、SCA14は稀な疾患と推定される。PKCGはイノシトール-リン脂質系細胞内シグナル伝達に関与しているタンパクであるが、この伝達系においてはphospholipase Cβ4(PLCβ4)も構成要素の一つである。PLCβ4ノックアウトマウスは運動失調を呈することから、ヒト脊髄小脳変性症の候補遺伝子の一つである。そこで原因不明の遺伝性脊髄小脳変性症において、PLCβ4遺伝子のエキソン全長について変異の有無を検討したが、現時点では疾患と相関するものは検出されていない。今後の課題としてはSCA14においてはモデル動物の作成による神経病理、発現遺伝子の変化などが必要である。さらに、病因遺伝子が不明の遺伝性脊髄小脳変性症が3-40%残されているので、研究の継続が必要である。
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