本研究においてアンキリン反復配列をもつ核内蛋白であるCARPの機能解析を行った。CARPは心筋細胞にてアドリアマイシンによって発現が著明に減少する蛋白として同定された遺伝子であるが、機能は全く不明であった。その機能解析にあたり、まず、CARPを発現するアデノウイルス(Adex/CARP)を作成した。Adex/CARPを心筋細胞に強制発現することによって、CARPが心肥大を抑制する機能を有することを見いだした。次に、血管平滑筋細胞において、CARPはTGFβの刺激によって早期に誘導されてくることをノーザンブロットにて明らかにした。その機構を詳細に解析することによって、CARPのプロモーター上には、CAGAボックスが存在し、Smadが直接的に結合することが明らかになった。また、Adex/CARPを感染させ、血管平滑筋細胞にCARPを過剰発現することによって^3H-thymidineの取り込みが減少し、また、ホルボールエステル刺激によって惹起される平滑筋細胞の増殖が抑制された。さらに、Adex/CARPの感染によって、p21の発現がmRNAレベルで増加した。また、p21のプロモーターに結合し、その転写活性を増強する機能をもつp53は蛋白レベルで増加した。P53のmRNAレベルは、Adex/CARPにて影響を受けなかった。したがって、CARPは、P53蛋白の分解を抑制し、細胞増殖を抑制する機能をもつ可能性があると考えられた。したがって、TGFβがもつ、血管平滑筋細胞の増殖抑制機能のうち、少なくとも一部は、CARPの誘導を介している可能性がある。CARPは心筋細胞、血管平滑筋細胞、および血管内皮細胞に特異的に発現する遺伝子であることから、p53安定化作用をもつCARPは心血管のアポトーシス抑制に重要であると考えられる。現在、RNAiの使用により、この仮説を実証することを試みている。
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