研究概要 |
本研究課題は血管内皮細胞機能不全におけるシグナル伝達系を特に低分子GTP結合蛋白質RhoA活性化の観点から解明し、血管内皮細胞機能不全の治療戦略を検討したものである。 酸化LDL、単球接着は血管内皮細胞機能不全を誘導する。酸化LDLのリン脂質成分であるlysophosphatidylcholine(LPC)は内皮細胞のRhoAをすみやかに活性化するとともにCa^<2+>シグナルも誘導し、Ca^<2+>シグナルとRhoA活性化との関連に示唆を与えた(Circulation,2002;105:962)。LPC刺激の心筋細胞膜電流においてもRhoの関与が示された(Mol.Pharmacol.2002;62:602)。末梢血単球の血管内皮細胞への接着系において、単球接着により速やかに内皮細胞のRhoAが活性化し、NF-kBのリン酸化、組織因子遺伝子発現増加が誘導された。ドミナントネガティブRhoA遺伝子導入により、単球接着による内皮細胞での組織因子発現増強にはRhoA活性化/NF-kBリン酸化が重要であることが示された(Arteriscler.Thromb.Vasc.Biol.2003;23:681)。さらに、血管内皮細胞のeNOS発現調節にRhoA活性化は重要であり、酸化LDL刺激によるRhoA活性化の上流に膜結合形のmatrix metalloproteinaseが何らかの関与をしていることが示唆され、また、単球培養系でも血栓関連遺伝子発現におけるRhoAの重要性が示された(BBA.2002;1590:123,Atherosclerosis,2002;163:39)。いずれの系においてもスタチンの有効性が示されている。 心外膜側冠動脈内皮損傷により誘導される冠微小血管攣縮モデルを用いて、微小血管内皮細胞機能不全の病態について検討したところ、フリーラジカルの関与についての成果を示すことができ、低分子G蛋白質との関連についてはさらに検討が必要と思われた(Coron.Artery.Dis.2004;15:21、Coron.Artery.Dis.2004;15:137)。また、虚血における内皮機能不全の病態解明を目的にラット冠動脈狭窄モデル系に用いた系では、レニン・アンジオテンシン系の阻害が虚血心筋リモデリングに対して有効であることが示された(Am..J.Physiol.2003;285:H359)。 以上の結果より、血管リモデリングの初期病態である血管内皮機能不全にRhoAは深く関与している可能性が示され、スタチンによるRhoA阻害は血管内皮細胞機能不全に対する治療戦略の重要なひとつとして捉えられるものと思われる。今後、RhoA活性化に至る上流のシグナル伝達系の解明が血管内皮細胞機能不全の病態解明と新たな治療の確立に重要と考えられる。
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