研究概要 |
細胞骨格は外界のシグナルや細胞周期に応じてダイナミックに再構築され、様々な細胞高次機能を制御している。Wiskott-Aldrich症候群(WAS)の原因遺伝子WAS蛋白(WASP)遺伝子がコードするWASPは細胞形態や細胞運動等の高次機能を制御しているものと考えられているが,本症候群における免疫不全症の分子機構については未だ不明のままである.今回細胞形態や細胞運動に密接に関連する接着分子β1-インテグリンの活性化には,細胞骨格(F-アクチン)の重合化が必要であると云う最近の報告に着目し,本研究においては細胞抗原レセプターとβ1インテグリンを介した2つのシグナル伝達系と細胞骨格を制御すると考えられているWASPとの関連を明らかにすることにより,免疫不全症に関わる細胞骨格調節異常の分子機構を解明し、WAS患者の遺伝子治療の可能性を探ることを目的とした。平成15年度の研究においては、白血病患者由来T細胞株L-KAWを用いて固相化フィブロネクチン刺激後のWASP分子のチロシンリン酸化を検討し、刺激後1〜2分にかけてWASP分子のチロシンリン酸化が観察されていた。そこで今年度は同じ実験系にアクチン重合を阻害するとされるサイトカラシンBを添加したところ、これらのWASP分子のチロシンリン酸化が完全に抑制されることを見い出した。このことはWASP分子のチロシンリン酸化にはアクチン重合が必要であるということを示しており、従来報告されてきたシグナル伝達系とは逆方向のシグナル伝達が存在する可能性を示唆している。同様の実験系において、β1-インテグリンシグナル伝達系のアダプター分子Casのチロシンリン酸化についても検討したところ、サイトカラシンBを添加した系では、Casのチロシンリン酸化は認められなかった。以上の結果はWAS患者におけるT細胞の機能異常に近似した現象ではないかと考えられ、細胞骨格調節異常が免疫不全症の発症機構に関与することを示唆する貴重な実験結果であると思われた。
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