研究概要 |
アトピー性皮膚炎や1型糖尿病の小児患者においては尿中8-OHdG,acrolein-lysine,pentosidine排泄が正常対照よりも有意に増加していること,かつ,その程度は疾患の重症度と正に相関していることを示した。これらの患者では酸化ストレスの慢性的な亢進状態にあり,酸化ストレスの増強が病状悪化の推進要因になっていることが示唆された。極低出生体重児で呼吸窮迫症候群を呈した患者に対して早期新生児期に強力な抗酸化剤であるdexamethasoneを少量・短期投与することで,その後の慢性肺疾患発生を抑制できることを証明した。極低出生体重児において抗酸化効果を発揮する他の薬剤であるerythromycinが消化管に対して,magnesiumが心筋,骨に対して副作用を呈しうることを報告した。高ホモシステイン状態により慢性的に酸化ストレス過剰状態に曝される遺伝子多型MTHFR:TT型が男性の気管支喘息発症の危険因子である可能性を報告した。 tumor necrosis factor-α(以下,TNF)により活性化された培養ヒト肺微小血管内皮細胞(PMVEC)への白血球の接着は共存する抗酸化剤(pyrrolidine dithiocarbamate、以下PDTC)や過剰のNOにより低下する。それは,これらの薬剤が転写因子NF-_kBの活性化を負に制御することで接着分子(E-selectin,ICAM-1,VCAM-1)のmRNAの発現を抑制するためである。以上の実験結果から,肺では過剰のNOは気道-血管関門の破綻を招くが(Tsukahara H, et al. Life Sci 2000),一方ではNOは白血球の接着,浸潤を抑制する働きを持つと推測された。TNF処理により培養ヒト皮膚微小血管内皮細胞での接着分子(E-selectin,ICAM-1,VCAM-1),ケモカイン(IL-8,MCP-1,RANTES,eotaxin)のmRNAと蛋白の発現が増加するが,これらの反応がPDTCや過剰のNOの前処理により有意に抑制されることを示した。TNFによりNF-_kBが活性化されるが,それはPDTCやNOの前処理により有意に抑制されることも観察した。ヒト微小血管内皮細では,抗酸化剤やNOによるレドックス制御が"TNF→酸化ストレス亢進→NF-_kB活性化→標的遺伝子誘導"の炎症カスケードを効果的に遮断すると結論された。NOガスが高圧で保存された場合に見られるNO_2とN_2Oに不均一に分解される反応:3NO=NO_2+N_2Oのchemical kineticsを導き,米国NHLBI Workshop(1993)での合意事項の1つ("吸入用NOは低圧で保存しなければならない")の理論的根拠をはじめて提出した。また,N_2O麻酔が腎不全患者の血管内皮機能をさらに悪化させる危険性を示唆した。
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