研究概要 |
(臨床) 気管支喘息患者において内因性NO産生が増加していること,早産児のうち酸素補充を受けた患者では内因性のNO産生のみならずROI産生も増加し抗酸化酵素系が減弱していることを示唆するデータを得た。アトピー性皮膚炎,1型糖尿病の小児患者においては尿中8-OHdG, acrolein-lysine, pentosidine濃度が有意に増加していること,その程度は疾患の重症度と正に相関していることを示した。これらの患者は酸化ストレスの慢性的な亢進状態にあり,酸化ストレスの増強が病状悪化の推進要因になっていることが示唆された。さらに,アトピー性皮膚炎患者では内因性NO産生が低下していることが示され,構成型NOS活性が疲弊していることが推測された。極低出生体重児でNRDSを呈した患者に対して早期新生児期に強力な抗酸化剤であるdexamethasoneを少量・短期静脈内投与することにより,その後の慢性肺疾患発生を抑制できることを証明した。高ホモシステイン状態により慢性的に軽度の酸化ストレス過剰状態に曝される遺伝的多型MTHFR : TT型が男性の気管支喘息発症の危険因子である可能性を報告した。 (基礎) 培養ヒト肺微小血管内皮細胞を用いて以下の事項を明らかにした。(a)過剰のNOは内皮細胞の細胞外基質への接着をcGMP非依存性に抑制する。これはNOが内皮細胞表面に発現したintegrinシステイン残基中のチオール基をジスルフィド結合させるためと推測される。また,thrombinによる内皮細胞の細胞外基質への接着抑制はNOS3由来のNOに部分的に依存する。(b)TNFにより活性化された肺微小血管内皮細胞への白血球の接着は共存する抗酸化剤(PDTCなど)や過剰のNOにより低下する。これらの薬剤が転写因子NF-_kBの活性化を負に制御することで接着分子(E-selectin, ICAM-1,VCAM-1)のmRNA,蛋白発現を抑制するためである。以上の実験結果から,肺では過剰のNOは気道-血管関門の破綻を招くが,一方ではNOは白血球の接着,浸潤を抑制する働きを持つと推測された。TNF処理により培養ヒト皮膚微小血管内皮細胞での接着分子,ケモカイン(IL-8,MCP-1,RANTES, eotaxin)のmRNA,蛋白の発現も増加するが,これらの反応が抗酸化剤や過剰のNOの前処理により有意に抑制されることも示した。肺微小血管内皮細胞や皮膚微小血管内皮細胞では,抗酸化剤やNOによるレドックス制御が"TNF→酸化ストレス亢進→NF-_kB活性化→標的遺伝子誘導"の炎症カスケードを効果的に遮断すると結論された。
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