研究概要 |
我々は、ガラクトシルセラミド分解酵素(GALC)の必須の活性化たんぱく質であるサポシンAをノックアウトすることにより、代表的な遺伝性脳白質変性症の一つであるKrabbe病(別名Globoid cell Leukodystrophy(GLD))のモデル動物(サポシンAノックアウトマウス)を新たに作成することに成功した。サポシンAノックアウトマウスは、遅発型のGLDの病像を呈し、最も興味深いことには、妊娠時に、臨床的・病理学的改善がみられることを見出した。妊娠の有無によるサポシンAノックアウトマウスの脳での遺伝子発現の差異を比較検討したところ、サポシンAノックアウトマウスの脳ではサイトカインおよびケモカインの発現が増加しており、特にRANTES,MIP-1β,MIP-1α,MCP-1,TNF-αが著明に増加していた。またサイトカイン/ケモカインレセプターではTNFαレセプター(TNFRI,TNFRII),CCR1,CCR5が増加していた。このうちRANTES,MIP-1β,MIP-1α,MCP-1,TNFαレセプターの増加が妊娠マウスで抑制傾向にあった。妊娠したサポシンAノックアウトマウスの脳においてケモカインやTNFαレセプターの発現増加量が明らかに抑制されていたことから、妊娠による二次的な炎症反応の抑制がGLDの脱髄抑制効果の原因の一つであることが推定された。17β-エストラジオールを埋め込んだサポシンAノックアウトマウスにも妊娠と類似の症状の軽減が見られたことから、GLDに対し、エストロゲンあるいはエストロゲン様リガンドの投与が治療の選択肢となる可能性が見出された。また、多発性硬化症やアルツハイマー病の罹患率や重症度には疫学的に性差があることより、サポシンAノックアウトマウスはGLDのみならず、他の脱髄疾患の治療法開発にも役立つものと考える。
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