Hsp90は分子シャペロンの一つとして知られており、細胞の増殖、分化、シグナル伝達に関与する分子と結合し、それらの分子の機能・局在・安定化に大きく関っている事から新たな癌治療の分子標的として注目されている。Hsp90のアンタゴニストであるGeldanamycin (GA)がHsp90のATP/ADP領域に結合すると複合体の構成が変化して標的蛋白質はHsp90から遊離し易くなり、その後細胞内のユビキチン・プロテアソーム系などで分解される。その結果標的蛋白質のシグナル伝達は阻害される。 本研究ではGAと放射線を併用し、肺扁平上皮癌由来のSQ5と大腸の腺癌由来のDLD-1細胞における放射線感受性の増強効果について検討した。まずコロニー形成法により細胞生存率を求めた結果、放射線単独に比べGAと放射線を併用した場合、相乗的に細胞致死効果の増強が両細胞で観察された。Hsp90結合蛋白質であるEGFRなどの増殖因子受容体は生存シグナル伝達に重要であり、GAによる発現制御が放射線増感を引き起こすと考えられる。また増殖因子受容体下流のPI3K-Akt経路は抗アポトーシスの生存シグナル伝達に重要な役割を果たしているが、SQ5細胞ではAktのリン酸化がGAにより大きく抑制された。その結果SQ5においては、GAと放射線を併用する事によりアポトーシスが引き起こされ、大きな放射線致死効果の増強が観察されたと考えられる。今回の我々の結果より、GAによる放射線増感には、Aktの活性化の抑制を介する系と介さない系がある事が示唆される。また、マウス正常細胞とそれに由来する癌化細胞でGAの放射線増感効果について調べたが、癌化細胞で大きく、正常細胞は小さいといった結果であった。現在、臨床応用可能なGA誘導体を用いて、さらに詳細な放射線との併用効果について解析を進めている。
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