統合失調症の認知障害は、患者の社会機能に深刻な影響を及ぼすため、その病態生理の理解と治療メカニズムの解明が求められる。本研究では、認知障害の責任部位として、内側前頭前野に焦点を絞り、ラットを用いて検討してきた。その結果、以下の知見を得た。1)ヒトに統合失調症ときわめて類似した精神症状や認知障害を惹起するphencyclidineをラットに投与すると、内側前頭前野でグルタミン酸放出が亢進し、移所運動が増加する。これらの変化は、5-HT2A受容体遮断能を有する薬物やclozapine投与によって阻止できる。2)内側前頭前野にグルタミン酸系ニューロンを投射している背内側視床を神経化学的に破壊すると、phencyclidineと同様にNMDA受容体遮断能を有するMK-801による内側前頭前野でのグルタミン酸放出の程度や移所運動の亢進が惹起される。3)Olanzapineを慢性投与するとラットの内側前頭前野でのdopamine D1受容体のタンパク発現量が増加し、同時に放射状迷路を用いた作業能力の亢進がみられる。 以上より、分裂病の認知障害と密接に関連する前頭前野でのNMDA受容体機能低下に関連するグルタミン酸放出の亢進やdopamine D1受容体機能の低下を修正しうる非定型抗精神病薬が、この認知障害を改善する可能性がある。非定型抗精神病薬のうちでも、NMDA受容体機能を促進する効果を有するとされるclozapineやolanzapineが、分裂病の認知障害を改善する可能性が示唆される。
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