統合失調症は、その病態として認知機能障害の存在が認識されており、注意障害・記憶障害・執行機能の低下などが数多く報告されている。本研究においては、まず統合失調症の心理学的側面での特徴である記憶障害や臨床場面で頻用されるロールシャッハ・テストと脳画像研究から得られた体積変化との関わりを調べた。さらに、optimized voxe1-based Morphometry (VBM)を行い、当施設での統合失調症の脳(灰白質)容積変化を健常対照者と比較した。この結果、統合失調症において前頭葉領域では両側上前頭回・下前頭回、右側中前頭回で有意な容積減少を認め、側頭葉領域では両側上側頭回、左側中心前回、辺縁系領域では右側海馬、右側帯状回後部、大脳深部領域では両側視床に有意な容積減少を認めた。統合失調症の脳形態変化として前頭葉・側頭葉を中心とした容積減少が多く報告されているが、我々の結果も従来研究に矛盾しない結果となった。 さらに、ロールシャッハ・テストにおいて現実検討能力を反映するといわれる認知的媒介スコアをもとに高い群と低い群に分け、その臨床的な差異や脳体積変化について比較した。脳形態に関してoptimized VBMを行った結果、高い群に対し低い群で、左側上側頭回前部を中心とした左側頭葉前部(左側中側頭回前部・下側頭回前部・左側頭極)に有意に容積減少を認めた(corrected P <0.05)。今回の研究の結果、現実検討能力が社会機能、左側側頭葉前部の脳容積変化と関連があることが示唆された。 予備的な研究として抗精神病薬の脳形態への影響を調べるため、定型抗精神病薬投与群5例と非定型抗精神病薬投与群24例、定型抗精神病薬投与群5例とセロトニン・ドパミンアンタゴニスト(SDA)投与群16例に対しoptimized VBMを用いて脳容積変化を検討した。解析の結果、有意水準をuncorrected P <0.005とすると、非定型薬投与群に対し、定型薬投与群で、両側前部帯状回、右側中前頭回、右側上側頭回に容積減少を認めた。また、SDA投与群16例に対し、定型薬投与群5例で、両側前部帯状回、右側中前頭回、両側視床で容積減少を認めた。今回の研究では、定型抗精神病薬投与群・非定型抗精神病薬投与群とも多剤併用例が多く、今後の更なる解析には、単剤例を中心として例数を増やした検討が必要であると考えられた。
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