本研究では、恒常的に二量体化する活性型STATを用いて、造血幹細胞におけるSTAT特異的な機能を解析した。活性型STAT3CおよびSTAT5 1^*6遺伝子をそれぞれ、マウス造血幹細胞100個にレトロウイルスベクターを用いて強制発現させex vivoで液体培養した。液体培養はSCF単独またはSCF、TPOおよびFL存在下無血清培地にて行った。STAT5 1^*6発現細胞は、SCF単独においても顕著な細胞数の増加を示すとともに、多系統の細胞系列への分化を示した。液体培養9日目にcolony assayを行った結果、HPP-CFCがGFPコントロールの約6倍に増加しCFC-GEMMも局頻度に認められた。SCF、TPOおよびFL存在下で液体培養後コロニーアッセイした場合でも同様の傾向を示した。STAT3Cについては明らかな効果は認められなかった。次に、造血幹細胞100個にSTAT5 1^*6ウイルスを感染後、SCF単独またはSCF、TPOおよびFL存在下で液体培養し、細胞を5等分して5匹の致死量放射線照射したマウスに移植することにより、骨髄における造血再構築能を調べた。移植後2ヶ月目の末梢血の解析において、SCF、TPOおよびFL存在下液体培養後移植すると、GFPコントロールではまったくキメリズムが認められなかったのに対し、STAT5では約12%のキメリズムが認められた。一方、SCF単独で培養後に移植したマウスではGFPコントロールと同様キメリズムは認められなかった。以上の所見から、活性型STAT5は、造血幹細胞の増殖とともに多系統への分化を効率よく支持することが示された。この際、多分化能を有するHPP-CFCの著増を認め、活性型STAT5を活性化することにより多能性前駆細胞を増殖しうることが確認された。一方、活性型STAT3については有意な機能が認められなかった。移植実験により、活性型STAT5を導入後、SCF、TPO、FL存在下で9日間培養した細胞中には、長期骨髄再建能を有する造血幹細胞が維持されていることが確認され、STAT5が造血幹細胞の未分化性の維持にも関与する可能性が示唆された。
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