IL-3依存性Baf-3細胞のIL-3受容体からのシグナルは、Ras/PI3KまたはRaf/MAPK経路を経て細胞死誘導因子Bimの発現を抑制する。またサイトカイン欠乏による細胞周期の停止に関わるp27^<KIP1>の発現も概ね同じ経路で制御されている。この際、Bimやp27の発現制御はmRNAレベルであるため、われわれは転写調節が重要な役割を果たしているものと考えたが、これらの遺伝子の発現制御領域内にサイトカイン依存的に機能するシスエレメントを同定することができなかった。そこでBimやp27のmRNAを試験管内で合成して、Baf-3細胞の細胞質抽出液中での半減期を測定した。IL-3存在下で培養した細胞抽出液中の半減期は5-10分に対し、IL-3非存在下では30分以上と大きな差があった。pull downアッセイを行ったところ、70KDa近辺にIL-3非存在時に増強するバンドを認めた。質量解析器で同定したところ、ヒートショック蛋白Hsc70であった。Hsc70の精製蛋白をIL-3存在下での細胞抽出液に加えたところ、mRNA半減期の延長が認められた。Baf-3細胞中のHsc70の発現量はIL-3の有無によらず一定であるため、われわれはIL-3の標的因子がHsc70のRNA結合能を抑制している可能性を検索した。その結果Bag-4(SODD)がIL-3依存的に発現すること、Hsc70のRNA結合能を低下させることが判明した。またBaf-3細胞にBag-4を強制発現すると、IL-3欠乏時にも細胞周期は完全に停止せず、アポトーシスも抑制された。以上の結果より、Baf-3細胞ではIL-3受容体からのシグナルがBag-4などコシャペロンの発現を促進し、Hsc70のRNA結合能を低下させてBimやp27のmRNAを不安定化させることによってその発現を抑制することが判明した。
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