慢性骨髄球性白血病(Chronic Myelogenous Leukemia : CML)は融合遺伝子産物p210BCR/ABLにより発症する造血器腫瘍であり、顆粒球の増多を主徴とする慢性期を経た後に幼若芽球の急激な増加を示す急性転化を起こす事を臨床的特徴とする。我々は造血前駆細胞に高発現している遺伝子のプロモーターを用いて世界で初めてCMLトランスジェニックマウスの開発に成功した。このマウスに癌抑制遺伝子p53のヘテロマウス(2対のp53遺伝子の一方を人為的に欠失させたマウス)を掛け合わせたところ、CML急性転化様の幼若芽球の増加を認めた。芽球においては残存している正常p53遺伝子が高頻度に欠失してp53欠損の状態になっており、後天性にp53を欠損したp210bcr/abl発現血液細胞が形質転換を起こし、増殖能を獲得して急性転化を来す事が証明された。これは特定の遺伝子異常がCMLの急性転化に関与することを個体レベルで初めて示したものであり、我々のp210BCR/ABLトランスジェニックマウスはCML急住転化の解析においても有用であることを示している。CML急性転化に関与する遺伝子を包括的に解析する目的で、CMLトランスジェニックマウスにレトロウイルスを感染させ、内在性の遺伝子を活性化または不活化する「in vivo mutagenesis」を行っている。実際には母乳を通じて産仔にウイルスが伝搬されるBHX2マウスをCMLトランスジェニックマウスと掛け合わせ、ダブルトランスジェニックマウスを作製している。マウスのgenetic backgroundがBHX2に近づかないと統計的検定は出来ないとされており、これには3世代のBHX2へのbackcrossが必要であると考えられている。現在BHX2へのbackcrossが世代終了したマウスが生まれており、末梢血の血球数および血液像を定期的に観察し、CML急性転化の発症について検討し、急性転化が認められた個体について原因遺伝子を同定する予定である。
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