慢性骨髄球性白血病(Chronic Myelogenous Leukemia : CML)は融合遺伝子産物p210BCR/ABLにより発症する造血器腫瘍であり、顆粒球の増多を主徴とする慢性期を経た後に幼若芽球の急激な増加を示す急性転化を起こす事を臨床的特徴とする。付加的遺伝子異常がCMLの急性転化に関わっていると考えられているが、その分子機構は不明な点が多い。我々は造血前駆細胞に高発現している遺伝子のプロモーターを用いてp210BCR/ABLを発現するトランスジェニックマウスを作製した。このマウスは再現性良くヒトCMLに似た顆粒球の増多を示し、優れたCMLの動物モデルと考えられた。このモデルマウスを用いてCML急性転化に関与する遺伝子を解析する事を試みた。この目的のため、トランスジェニックマウスにレトロウイルスを感染させ、内在性の遺伝子を活性化または不活化する「in vivo mutagenesis」を行った。実際には母乳を通じて産仔にウイルスが伝搬されるBHX2マウスをCMLトランスジェニックマウスと掛け合わせ、ダブルトランスジェニックマウスを作製した。マウスのgenetic backgroundをBHX2に近づける必要があり、そのため3世代のBHX2へのbackcrossを行った。現在BHX2へのbackcrossが世代終了したマウスが生まれており、末梢血の血球数および血液像を定期的に観察している。これまでの観察の結果、5匹のp210BCR/ABL陽性マウスに急性白血病の発症を確認した。これらのマウスの腫瘍組織からDNAを抽出し、レトロウイルス特異的なプライマーを用いてPCRを行い、複数の急性転化遺伝子を単離した。
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