発作性夜間血色素尿症(PNH)は、Glycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカーを欠損した造血幹細胞がクローナルに拡大する疾患である。PNHが、再生不良性貧血を合併することやHLADRB1^*15をもつ再生不良性貧血には高頻度でGPI欠損細胞を認めることより、その拡大には自己免疫的な機序が考えられている。しかし、再生不良性貧血で見つかるGPI欠損細胞の比率はきわめて低く、末梢血のほとんどすべてをGPI欠損異常細胞で占めるような症例では、さらなる異常の関与が考えられる。我々は、GPI欠損細胞に12番染色体異常をもつ症例を経験し、その異常の同定を試みた。 患者J20の染色体異常は、一方の12番染色体のq13-q15領域の約9.3Mbpが欠失し、その断片のセントロメア端、テロメア端をそれぞれ2.6kbp、9.5kbp失った断片が、もう一方の12番染色体のq15領域に15kbpの欠失を伴い挿入していた。12q15領域の挿入部位には、HMGA2(HMGI-C)遺伝子が存在し、HMGA2遺伝子の3'UTR3kbpのうち、3'側1.8kbpが欠失していることがわかった。 HMGA2は、胎児期には高発現しているが、大人ではほとんど発現していない転写促進因子である。HMGA2のC末領域の酸性アミノ酸に富む領域を欠損した異常蛋白が、脂肪腫、子宮筋腫、過誤腫などの良性の間葉系腫瘍の発症に関与することが知られている。間葉系腫瘍では、3'UTRを失うことによりHMGA2の発現が誘導されていると考えられている。本症例においても、3'UTRを失うことにより、HMGA2の発現が誘導され、この染色体異常を持つ異常造血幹細胞が良性腫瘍的に増加しているのではないかと考えられる。
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