発作性夜間血色素尿症(PNH)は、PIG-Aの異常によりGPIアンカーを欠損した造血幹細胞がクローナルに拡大する疾患である。PNHが、再生不良性貧血を合併することやHLA DRB1^*15をもつ再生不良性貧血には高頻度でGPI欠損細胞を認めることより、その拡大には自己免疫的な機序が考えられている。しかし、再生不良性貧血で見つかるGPI欠損細胞の比率はきわめて低く、末梢血のほとんどすべてをGPI欠損異常細胞で占めるような症例では、さらなる異常の関与が考えられる。本研究で、我々は、GPI欠損細胞に12番染色体異常をもつ症例を経験し、その異常を同定した。その染色体異常のDNA切断点には、脂肪腫などの良性間葉系腫瘍の発症に関与することが知られているHMGA2遺伝子が局在していた。以上より、異常なHMGA2遺伝子の発現誘導により、この染色体異常を持つ異常造血幹細胞が良性腫瘍的に増加しているのではないかと考えられる。そこで、患者骨髄におけるHMGA2遺伝子の発現をリアルタイムPCR法により解析したところ、正常ではほとんど検出できなかったが、本症例では有意に上昇していた。我々は、末梢血のすべてを異常細胞で占めるようなPNHの発症には、3つのステップが関わっている事を提唱している。最初のステップでは、造血幹細胞において、PIG-Aに異常が起こり、GPIアンカーが欠損する(ステップ1)。第2のステップで、免疫的な機序によりGPIアンカー欠損細胞が選択される。GPIアンカーを欠損すると免疫的な攻撃に抵抗性となることにより異常細胞は選択的に増加する(ステップ2)。しかし、さらなる増加には、今回我々が同定したHMGA2等の遺伝子に異常が起こり、PNHが発症すると考えている(ステップ3)。今後、本症例だけでなく、どのくらいのPNH症例でHMGA2遺伝子の発現異常があるかどうかを検討していくつもりである。
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