研究概要 |
本年度は血管における脈管作動性機能蛋白遺伝子の発現に関する研究に焦点を絞り研究を進めた。I)すなわち、血圧調節とインスリン抵抗性に関する基盤分子としてのPPAR(peroxisome proliferators-activated receptor)に着目した。PPARの作用部位としての血管や腎臓に焦点を絞り、まずPPARファミリーの抗体を独自に作成し、これを用いて腎臓内の発現局在を検討した。本研究にて作製した抗体は、PPARαに対する特異抗体、PPAR-γ1およびPPAR-γ2に対する抗体、およびPPAR-γ2に対する抗体である。これらを用い免疫染色にて発現部位を検討すると、1)PPAR-αはこれまでに報告されている近位尿細管やヘンレ上行脚のみならず糸球体、遠位尿細管にも発現がみられた。また、血管系にも発現が確認された。2)PPAR-γ1についても、血管、糸球体、およびネフロンのほぼ全域にわたって発現があった。3)PPAR-γ2は腎内には発現が検出されなかった。以上から、PPAR-αおよびγ1は血管系や尿細管といった血圧調節に関係する組織に発現がみられ、同部位における遺伝子作用が期待された。II)これを裏付けるように、血管平滑筋に発現し血管収縮に関与するトロンボキサン(TX)受容体の遺伝子転写がPPAR-γ1の活性化にて抑制され、これは転写因子Sp-1の機能を蛋白-蛋白相互作用によることを報告した(J.Biol.Chem.277:9676-83,2002)。III)また、PPAR-γ1のリガンドのチアゾリジン誘導体が腎糸球体輸入細動脈の拡張を二相性にもたらし、後期の拡張にはPPAR-γ1の活性化の関与も想定されることを報告した(J.Amer.Soc.Nephrol.13:342-9,2002)。これらを総合して考察すると、PPAR-γ1の活性化は腎血管拡張作用(糸球体細動脈における)を介して腎血行動態に影響し、糸球体濾過率の増加などの降圧作用をもたらす。その分子基盤にはTX受容体や以前に報告したアンジオテンシン受容体発現抑制(Sugawara A. et al. Endocrinology.2001 Jul;142(7):3125-34)を介した分子機構の関与が考えられる。尿細管におけるPPAR-αやPPAR-γ1の機能や標的遺伝子は今後の検討課題である。また、血管系のPPAR-αの意義についても今後の検討が必要である。
|