研究概要 |
現在の腎臓領域における問題の一つは慢性腎不全患者の増加である。年々透析患者数は増加しており、我が国において2000年末には現在約206,134人が透析を受けている。慢性腎不全患者増加の最大の要因は糖尿病性腎症の増加であり、1998年より糖尿病性腎症が透析導入の原疾患の第一位となった。2000年の1年間に慢性透析に導入された31,925人のうち糖尿病性腎症による導入は11,685人で、全体の36.6%を占めている。しかも糖尿病性腎症を原疾患として透析導入となった場合、心・脳血管障害等のマクロアンギオパチーや感染症のため、5年生存率は約50%と予後は不良である。 この爆発的な糖尿病性腎症による腎不全の抑制のためには、厳密な血糖コントロールが最も重要であるが、合併症の成立機序を明らかにし、それを作用点とした新しい治療方法の開発も重要である。我々は平成11-13年度基盤研究(B)において、ICRマウスにストレプトゾトシンを投与し糖尿病を誘発することによりヒト糖尿病性腎症のびまん性病変類似の病変がもたらされることを見出した。このモデルを用いることにより、糸球体過剰濾過期のもたらされる遺伝子発現の変化を、遺伝子サブトラクション法や、高密度DNAアレイ法を用いることにより広くスクリーニングを行なった(Wada J et al. Kidney Int 59(4),1363-1373,2001)。そのなかにはまったく未知の遺伝子が含まれており、我々はこれらの遺伝子の構造を決定すると共にその機能を報告した(Wada J et al. Proc Natl Acad Sci U S A 95,144-149,1998;Yang Q et al. Proc Natl Acad Sci U S A 97(18):9896-9901,2000)。我々の同定した遺伝子のひとつは、translocase of inner mitochondrial membrane 44(Tim44)である。Tim44はミトコンドリア蛋白を細胞質よりミトコンドリア内へimportするmachinery proteinであり、多くのミトコンドリア蛋白がTim44に依存している。Tim44が上昇するとミトコンドリア蛋白、特にミトコンドリアマトリックス蛋白がimportされるためミトコンドリア機能は亢進すると考えられ、ミトコンドリアの機能亢進とそれにつづく活性酸素の産生がミトコンドリアの機能を逆に障害し、腎症の進展に関与していると推測される。本年度はTim44,uncoupling protein-1(UCP-1)、mitochondrial manganese superoxide dismutase(Mn-SOD)の発現ベクター(pcDNA3.1)とアンチセンスベクターを作製した。またそれらを腎尿細管に発現させるために、HVJ-Eベクターを用い基礎的導入実験を行い、発現ベクターの導入が可能となった。
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