研究概要 |
糖尿病、高脂血症、高血圧などの動脈硬化危険因子を合併するマルチプルリスクファクター症候群の中に、リスクの偶然の合併でなく共通の発症基盤をもつ病態が想定されている。しばしばインスリン作用不全を示すため「インスリン抵抗性症候群」とも呼ばれるが本態は明らかでない。私達は内臓脂肪蓄積がインスリン抵抗性の上流に存在し、脂肪細胞が分泌する多彩な生理活性物質(adipocytokineと呼ぶ)の分泌異常が病態に関わることを明らかにしてきた。本研究は、私達が発見した新規脂肪細胞分泌因子、adiponectinの機能とインスリン抵抗性症候群に果たす役割を明らかにするものである。1)adiponectin欠損マウスは、高脂肪高ショ糖食負荷により強いインスリン抵抗性がおこり(Nat Med 2002)、血管内皮傷害により強い内膜肥厚が生じた(JBC 2002)。また内皮依存性血管拡張反応が障害され、高血圧にも関与すると考えられた(Hypertension 2003,JBC 2003)。2)一方遺伝子スクリーニングにより、血中濃度減少を伴うミスセンス変異を見い出し、この変異を有するものはインスリン抵抗性症候群の形質を示し(Diabetes 2002)、冠動脈疾患での頻度も高かった(JACC 2004)。また3)動脈硬化を好発するマウスにadiponectinを高発現すると粥状動脈硬化巣の進展が抑制され、(Circulation 2002)。4)臨床的にも血中濃度の高い群は、その後の糖尿病罹患率や心血管イベント発症率が低かった(Lancet 2002,JASN 2002)。以上よりadiponectinはインスリン抵抗性、動脈硬化双方に防御的に働くbi-functional moleculeで、「インスリン抵抗性症候群」において中心的な役割を果たすと考えられた。内臓脂肪蓄積時には多彩なadipocytokine分泌異常がおこるが、adiponectinの動脈硬化防御作用はインスリン抵抗性防御作用とは独立している。このような動脈硬化易発症状態を「インスリン抵抗性」症候群と呼ぶ妥当性については再考の余地があると考えられる。
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