研究概要 |
生殖腺の分化には各種転写因子の機能発現が不可欠であることが,遺伝子破壊マウスの表現系から明らかになっている。この結果はこれらの因子の重要性を確認するものであったが,これら因子の相互の関係を明らかにするものではなかった。そこで,我々は生殖腺に異常を示す各種遺伝子破壊マウスを収集し,これらのマウス間で交配実験を行なうことで遺伝的相互作用の有無を確認することにした。これまでにAd4BP/SF-1,Wt-1,Emx2,M33,Arx,Wnt4,Dhhなどの遺伝子破壊マウスについて,その遺伝的背景をC57BL/6とFVBに統一してきた。これらのマウスのうち遺伝的背景の統一作業中に表現系に変化をきたすものがあった。次いで,これらのマウスを用いて交配実験を行なったところ,Ad4BP/SF-1とEmx2遺伝子の間に遺伝的相互作用を認めた。これらのマウスではヘテロ変異において僅かな生殖腺の重量の減少を認めるが,ダブルヘテロを作製したところ生殖腺の重量が顕著に減少した。この両者の遺伝的相互作用の実体を明らかにするために,それぞれの単独変異マウスにおける他方の発現を調べたところAd4BP/SF-1遺伝子がEmx2遺伝子の下流に位置するらしいことが分かった。この両者の関係が直接的であるか,間接的であるかは現在不明であり今後の中心的課題である。 一方,Emx2遺伝子破壊マウスの生殖腺の消失過程を詳細に検討した。電子顕微鏡による観察では生殖腺の表面にイレギュラーな凹凸が出現し,後に消失する。このイレギュラーな凹凸を構成する細胞を調べたところ,極性を失っていることが明らかになった。Emx2がいかにして細胞極性の構築に関与するかは今後の重要な課題である。
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