研究概要 |
侵襲により引き起こされる全身性炎症反応症候群(SIRS)が,二次性多臓器不全発症の背景病態として近年注目されている.そしてSIRSの病態として,侵襲により局所で産生された炎症性サイトカインが血中に吸収され全身を循環する状態,すなわち高サイトカイン血症が指摘されている.今回,高サイトカイン血症(hypercytokinemia)発症における遺伝的因子の関与を明らかにしたうえで,遺伝的高サイトカイン血症ハイリスク患者を効果的に予知し,それらの症例に対しては積極的かつ強力な集中治療を施すという遺伝子分析に基づく個別化対策に発展させる目的で本研究を計画した. これらの目的に対して本年度は以下の如く検討を行った. (1)当ICUに入院してきた重症患者全員に対し,患者の重症度判定に有用であると我々が報告しているIL-6(interleukin-6)血中濃度迅速測定システムを用いて,IL-6血中濃度を入室時に測定し,その値が10,000 pg/mL以上の異常高値群と10,000 pg/mL未満の群とに分類した.そしてインフォームド・コンセントを得た上で,各々の群でサイトカイン関連遺伝子としてIL-6およびTNF(tumor necrosis factor)-αのpromoter領域における多型を解析し,IL-6血中濃度異常高値群と対照群においてgenotype distributionを比較した. (2)一方でIL-6血中濃度異常上昇の引き金となりうるTNF-αについてもELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法にて血中濃度を測定した.また今後,各症例におけるサイトカイン血中濃度の推移をはじめとした臨床経過および予後への遺伝的因子の関与を検討し,さらに重症化への影響を客観的に評価する目的で各種重症度評価法に基づいた重症度スコアリングも実施中である.
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