研究概要 |
侵襲により惹起される全身性炎症反応症候群(SIRS)が,二次性多臓器不全発症の背景病態として近年注目されている.そしてSIRSの病態として,侵襲により局所で産生された炎症性サイトカインが血中に吸収され全身を循環する状態,すなわち高サイトカイン血症が指摘されている.今回,高サイトカイン血症発症における遺伝的因子の関与を明らかにしたうえで,遺伝的高サイトカイン血症ハイリスク患者を効果的に予知し,それらの症例に対しては積極的かつ強力な集中治療を施すという遺伝子分析に基づく個別化対策に発展させる目的で本研究を計画した. 当ICUに入院した重症患者に対し,患者の重症度判定に有用であるとされるIL-6(interleukin-6)血中濃度を,迅速測定システムを用いて経日的に測定し,その値が10,000Pg/mL以上の異常高値群,10,000pg/mL未満の患者対照群および健常者対照群とに分類した.そして,各群でサイトカイン関連遺伝子としてIL-6,およびその上流のサイトカインであるTNF (tumor necrosis factor)-αとIL-1βのpromoter領域における多型を解析し,IL-6血中濃度異常高値群と対照群においてgenotype分布を比較した.結果,IL-6 promoter(-174G/C)一塩基多型は,対象例中に存在しなかつたが,TNF-α(-308G/A)とIL1-β(-511C/T)のpromoter一塩基多型におけるgenotype分布は,何れもIL-6異常高値症例群と,患者対照群および健常者対照群の何れとも有意に異なっており,IL-6異常高値症例群に多く認められるgenotypeの患者は重症度スコアが同程度でも予後不良であった.今後,これら予後の違いに対する血中サイトカイン動態の関与や,血液浄化療法を中心とした個別化対策の可能性につき検討予定である.
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