研究概要 |
平成14〜15年度の本研究において、肝移植後の拒絶反応およびグラフト機能障害に関与する因子として、肝虚血再潅流障害と肝血管構築異常の2つが重要な役割を担っていることを明らかにした。平成16年度の研究では、これらに基づいて、(1)肝虚血再還流障害のメカニズムとその制御、および(2)肝再生と肝血管構築、のそれぞれ焦点を当て検討した。これらの成果は投稿論文として受理され、それぞれTransplant International誌、Stem Cells誌に掲載予定である。 (1)肝虚血再潅流障害のメカニズムとその制御:肝虚血再潅流障害は肝切除や肝移植において、肝機能障害の原因として重要である。フリーラジカル・スカベンジャーであるMCI-186は脳血管障害における虚血再潅流障害を防ぐ薬剤として臨床使用されているが、肝虚血再潅流障害における有用性については明らかではない。本研究では、ラット肝虚血再潅流障害モデルを作成し、MCI-186投与群と非投与群を比較検討したところ、投与群において肝機能障害の有意な抑制を認め、MCI-186投与群で、macrophage inflammatory protei1 alpha and -2, monocyte chemoattractant protein-1, cytokine-induced neutrophil chemoattractant-2などのサイトカインやintercellular adhesion molocule-1の有意な抑制と、単球系細胞活性の抑制を認めた。これらの結果は、肝虚血再潅流障害において単球系細胞活性が中心的な役割を担うことを示すとともに、その制御が可能であることを示した。 (2)肝再生と肝血管構築:肝移植後の慢性拒絶反応は、そのメカニズムはなお明らかではなく治療法も確立しておらず予後はきわめて不良である。慢性拒絶反応で認められる血管構築の破壊は病態の中心をなす可能性が高いと考えられるが、その詳細は明らかではない。この研究では、肝再生における肝血管構築の役割を明らかにするために、マウスES細胞を用いて肝発生に関する検討を行った。その結果、肝発生の過程において、肝血管構築が先行する意義が明らかとなり、その過程においてvascular endothelial growth factorが重要な役割を果たすことが明らかとなった。慢性拒絶反応における血管構築破壊の制御に関する研究につながる可能性を示唆する結果と考えられる。
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