研究概要 |
【背景と目的】輸血による免疫修飾誘導の機序にドナー細胞生着によるmicrochimerismの成立が有力視されている。妊娠によって長期マイクロキメリズムが成立することが言われている。相互排他的に存在するであろう同種抗原感作と免疫寛容にはmicrochimerismの成立が重要な役割を演じているとの仮説の下に研究を行なった。 【研究方法】1.Y染色体特異的遺伝子増幅法の基礎的検討:男性血液を女性血液に混じて,最高感度で検出できるnested PCR条件を設定した。 2.妊娠既往女性のY染色体マイクロキメリズム:Y染色体をマーカーに男児妊娠女性(16名)と非妊娠女性(22名)の末梢血中の男性由来DNAを増幅して、評価した。 3.HLAクラスI抗体:13名のりンパ球に対するリンパ球細胞毒試験によって測定した。 【結果】1.Y染色体遺伝子増幅法:3ml血液のbuffy coat300μlを検体として,primer(Y1.5とY1.6)濃度10pmol/sample, Taq DNA polymerase濃度1.25U/sampleを用いて1stPCRステップ(95℃1分→60℃1分→72℃1分)を40cycle, primer(Y1.5とY1.6)を用いて2ndPCRステップを25cycleすると1/10^6〜1/10^7の感度で検出できるように確立した。すなわち検体1ml中1個の男性細胞を検出できる感度である。 2.男児妊娠既往女性:男児妊娠既往女性の15名(94%)にY染色体DNAが検出された。一方,妊娠既往の無い女性は1名(4.5%)だけ検出された。 3.HLAクラスI抗体は妊娠既往女性の誰からも検出されなかった。 【考察】非常に高い確率で母親に胎児細胞が生着し、マイクロキメリズムが成立していることが判明した。抗体が検出されていないことから免疫寛容が成立していると推定されるが,さらに詳細な解析が必要である。
|