研究概要 |
腫瘍で特異的に増殖し、破壊するアデノウィルスの臨床応用が開始され、これまでのがん遺伝子治療を超えた効果が期待されている。このウィルスをベクターとして利用することにより腫瘍部で遺伝子発現を著明に増幅出来ることを見いだしたため、蛍光遺伝子を腹膜播種や肝転移など転移巣特異的に強発現させ微小転移の描出化を行い消化器癌の術前・術中診断への応用を目的として研究を続けている。まず変異アデノウィルスを作成するべく、1)gene subcloning,2)PCRによる変異導入、3)E1欠失アデノウィルスゲノムをもつcosmidへの組み込み、4)COS-TPC法による293細胞へのco-transfection、5)cloneのpick upとpropagation(293細胞)を行った。更に変異アデノウィルスの膵癌細胞に対する効果の解析とGFP遺伝子の組み込みの検討実験では樹立したウィルス株で変異アデノウィルスのin vitroでの増殖能を膵癌細胞株と正常繊維芽細胞とで比較した。(293-plaque法、ウィルス抗原に対する免疫組織化学)更にその変異アデノウィルスにGFP遺伝子発現カセットを組み込むことにより、GFP遺伝子発現制限増殖型アデノウィルスベクターを樹立した。これを膵癌培養細胞、正常線維芽細胞に導入後、蛍光の発現を蛍光顕微鏡にて観察した。今年度はin vivoの実験として担癌マウスを用いた実験を行った。すなわちSCID mouseにヒト膵癌細胞(AsPC-1)を腹腔内接種し、膵癌癌性腹膜炎モデルを作成した。腫瘍接種後約2週間で腹膜播種が成立することを確認し、接種後48時間後にアデノウィルスベクターを腹腔内投与した。ベクター投与後1,3,5,7,10日でマウスの腹腔内を蛍光内視鏡を用いて観察し腹膜播種の有無を診断した。観察後にマウスを犠牲死させ、播種巣におけるウィルス増殖を定量し、増殖の程度と実際の診断能とを比較し、比較的低量でも十分な診断能が確保されるという結果を得た。
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