研究概要 |
正常大腸粘膜とそれに対応する大腸癌組織合計177サンプルから得たcDNAを対象とした。TS遺伝子が存在する第18番染色体短腕(18p)のmicrosatellite markerであるD18S59、D18S476、D18S481、D18S52、D18S452およびD18S57を用いたPCRを施行し、大腸癌組織における18pの欠失範囲を観察した。さらに、TS遺伝子の非翻訳領域に存在する繰返し配列(TRS)を挟むprimersを用いたPCRで、TRS数によるTS遺伝子型を判定した。その結果、172サンプル中正常大腸粘膜のTS遺伝子型が2R/3Rのヘテロであった90サンプルに対応する大腸癌組織のうち58サンプル(64.4%)にTS遺伝子座を含むアレルの欠失が確認された。また、TS遺伝子座を含む内訳は、2R/lossが12サンプル(30%)、3R/Iossが19サンプル(48%)であった。正常大腸粘膜が3R/3Rもしくは2R/2Rのホモである大腸癌組織についても、TS遺伝子座を含むD18S59を用いた解析では、正常大腸粘膜が2R/2Rである大腸癌組織の2/4(50.0%)に、3R/3Rである大腸癌組織の47/78(60.3%)にTS遺伝子座を含むアレルの欠失が認められた、TS遺伝子型はLOHの頻度に影響を及ぼさないものと考えられた。次いで、D18S59以外の6種類の18pマーカーを使用し,18pの欠失範囲の判定を行なった。その結果、107サンプルに認められた18pの欠失はいずれも広観囲に及び、新規発癌責任遺伝子の特定は断念せざるを得なかった。一方、その範囲に関わらず、18pの欠失の有無はTSmRNAとTS蛋白の腫瘍組織内発現量に影響を及ぼさなかった。腫瘍組織内のTS蛋白発現量は、3Rのアレルが存在する組織で有意に高く、3RのmRNAが転写されることによってTS蛋白の翻訳が亢進すると考えられた。
|