研究概要 |
【目的】近年、膵管癌はRas, p16, p53及びDPC4などの遺伝子異常の蓄積により起こることが膵癌切除標本の検討により明らかにされてきたが、膵上皮細胞におけるこれらの分子のOverlapping actionを詳細に検討するためには正常膵上皮細胞の性格を有するIN VITROモデルが必要である。今回我々はSV40 large T antigen (LT Ag) がp53蛋白に結合しその機能を制御しうることに着目し、温度感受性LT Agを遺伝子導入したトランスジェニックマウスより正常不死化膵上皮細胞株を樹立し、Rasとp53分子がいかに正常膵上皮細胞の形質変化(造腫瘍性獲得)に関与しているかを検討した。 【方法】温度感受性LT Agトランスジェニックマウスより不死化膵上皮細胞株を樹立し、permissive temperature (33℃:LT Ag+)及びnon-permissive temperature (39℃:LT Ag-)の培養条件下で以下の検討を行った。(1)細胞増殖能をcoulter counterにて検討、(2)LT Ag、p53及び細胞周期関連蛋白の発現、(3)FACSを用いて細胞周期分布を計測、(4)Ha-Ras adenovirus導入による造腫瘍性獲得の有無をsoft agar assayによるコロニー形成能にて検討。 【結果】(1)細胞増殖能:33℃では経時的に増殖し、39℃では増殖が停止した。(2)蛋白発現:LT Agが発現しているでは33℃ではp53,RB, p21の発現が著明に減弱、逆に39℃ではLT Agが著明に減弱し、p53, RB, p21の発現が増強していた。(3)細胞周期:33℃ではG2/M期に分布する細胞が約12%であったが、39℃では約40%と著明に増加しG2/M arrestを認めた。(4)造腫瘍性:33℃, 39℃いずれにおいてもコロニー形成は認めなかったが、Ha-Ras導入及び33℃ (p53不活化)の条件下でコロニー形成を認めた。 【総括】不細胞は33℃ではLTAgによってp53活性が阻害され不死化するが、39℃ではLTAgが失活、p21の発現が誘導されG2/M arrestによって増殖が停止し、正常膵上皮細胞として用いることのできる有用な細胞である。また、正常膵上皮細胞はRasとp53不活化によりIn vitroにおいて造腫瘍性を獲得することが示唆された。
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