研究概要 |
近年、膵管癌はRas, p16,p53及びDPC4などの遺伝子異常の蓄積により起こることが膵癌切除標本の検討により明らかにされてきたが、膵上皮細胞におけるこれらの分子のoverlapping actionを詳細に検討するためには正常膵上皮細胞の性格を有するin vitroモデルの確立が必要である。 平成14年度において、SV40 large T antigen (LT Ag)がp53蛋白に結合しその機能を制御しうることに着目し、温度感受性LT Agを遺伝子導入したtransgenic mouseより不死化膵上皮細胞株(Immortalized pancreatic epithelial cells : IMPAN cells)を樹立した。IMPAN cellsは、33℃では経時的に増殖し、39℃では増殖が停止した。また、LT Agが発現している33℃ではp53,p21の発現が著明に減弱、逆にLT Agが減弱している39℃ではp53,p21の発現が増強していた。細胞周期解析では33℃ではG2/M期に分布する細胞が約12%であったが、39℃では約40%と著明に増加しG2/M arrestを認めた。Soft agar assayによる造腫瘍性の検討では33℃、39℃いずれにおいてもコロニー形成は認めなかったが、p53が不活化している33℃の条件下でHa-Rasを導入するとコロニー形成を認めた。以上より、正常膵上皮細胞はRasとp53不活化によりin vitroにおいて造腫瘍性を獲得することが示唆された。 平成15年度においては、IMPAN cellsを用いてTGF-betaが膵上皮の悪性化に関与しているか否かを検討した。IMPAN cellsを33℃の培養条件下でTGF-beta処理すると、処理後約一週間目までは、細胞増殖の抑制が認められる。その後、このTGF-betaによる増殖抑制作用から回避する細胞が出現し、LT Agの発現を認めない39℃の培養条件下でも恒常的に増殖する細胞を認めた(IMPE-Tr cells)。この細胞株においてはTGF-betaによる増殖抑制効果が現弱しており、その機序としてsmad2のリン酸化の抑制およびp21の発現現弱が関与していると考えられた。さらに、親株であるIMPE cellsをズードマウス皮下に移植しても腫瘍形成は認められなかったが、IMPE-Tr cellsを移植すると皮下腫瘍形成を認め、その腫瘍は未分化な細胞からなり浸潤傾向に富む組織像を呈していた。以上より、TGF-betaの長期的な膵上皮細胞への刺激は、悪性化の一因である可能性が示唆された。
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