研究概要 |
本研究の目的は,移植肺への免疫抑制性サイトカインIL-10の遺伝子導入が,拒絶反応を制御し,さらにレシピエントに移植肺に対する免疫寛容(トレランス)を誘導するか否かについて,ラット肺移植モデルを用いて検討することである. 平成15年度には、MHC不適合の近交系ラットを用い,IL-10を経気道的にドナー肺に導入することで拒絶反応が抑制できるか否かについて検討した.遺伝子導入に際しては,アデノウイルスベクターを用いた. (研究方法) BN→Lewの組み合わせで,左肺移植を行った.移植3日前にドナー左肺に経気道的にIL-10遺伝子を導入した群と,β-galactosidaseを導入した(コントロール)2群を作成した.移植後6日目に,移植左肺を摘除し.移植肺の拒絶反応の程度を病理学的にスコアー化して両群間で比較検討した. (研究結果) 移植肺における拒絶反応のグレード,細胞浸潤のスコア,出血のスコア,壊死のスコアともに,両群間で統計学的な差異は認められなかった. (考察) IL-10の遺伝子導入では,移植肺の拒絶反応は抑制できないという実験結果を得たが,この結果は,我々が行った心移植モデルを用いた実験の結果と相反する.拒絶反応のグレードに差が見られなかった原因の一つとして,アデノウイルスベクター自体が炎症を惹起し,これが特に炎症細胞の多い肺で顕著に起こった可能性も考えられる.今後は,遺伝子導入に用いるベクターとして,liposomeなど炎症を惹起しないものを用い,IL-10の遺伝子導入が移植肺の拒絶反応を抑制するか否かについて検討する.
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