研究概要 |
僧帽弁閉鎖不全患者に対する弁形成術は,弁尖・弁輪・腱索・乳頭筋の複雑な僧帽弁の協調運動を温存できるという点から第一選択となってきている.しかし,弁形成術は医師の経験に依存するところが大きく,定量的な選択基準が存在しないのが現状である.本年度は,まず人工弁輪の特性評価を行うことを目的とし,性質の異なる人工弁輪を同一環境下にて評価可能な試験系の確立を目指した. 僧帽弁にはヒトと同等の形態・構造を有するブタ僧帽弁を採用し,弁閉鎖時の圧較差を詞整可能な装置を開発した.なお,僧帽弁部位は弁輪拡大や乳頭筋位置の相対的移動を可能な機構とし,健常及び病的な僧帽弁モデルを作製可能とした.まず,健常モデル内での弁輪部負荷を,前尖側1点,Trigone部2点,交連部2点,後尖側3点の合計8点についてロードセルで計測した.なお,僧帽弁に加える圧較差は20mmHg〜140mmHgの20mmHg間隔で実験を行なった.その結果,いずれの条件でも健常モデルでは交連部の負荷が他の計測部位に比べ低値となることが判明した.そこで,さらに臨床で多く使われているFlexible Ring(芯材:シリコーン)及びRigid Ring(芯材:チタン)の2種類の代表的な人工弁輪を,作製した病変モデルに縫合して比較評価を行った.その結果,Flexible Ringでは閉鎖に伴い形状が変化するが,Rigid Ringでは全く形状が変化しないことが視覚的に明らかになった.さらに,Flexible Ringでは交連部の負荷が健常モデルでの結果と同様に他の計測部位に比べ低値を示す傾向となったが,Rigid Ringではいずれの計測部位に対しても同一圧較差において負荷は一定という傾向を得た. 本研究は臨床情報の透明化に向けたひとつの試みとして位置付けられ,今後医師の手術訓練用シミュレータや患者ロボットとして更に改良していく方針である.
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