研究概要 |
僧帽弁閉鎖不全症に対しては自己弁を温存する弁形成が第一選択となっており,中でも人工弁輪を用いた弁形成術は確実性が高いことから多用されている.しかし,各種人工弁論の選択は医師の経験に依存しており,客観的根拠が存在しないのが現状である.そこで本年度は,昨年度に試作した生体の循環系を模擬した拍動装置をさらに改良・洗練化し,'この装置を用いて現在臨床にて用いられている4種の人工弁輪(Flexible ring, Rigid ring, Cosgrove ring, Physio ring)の性能比較評価を行った.なお評価項目には,僧帽弁逆流量および有効弁口面積を採用した.僧帽弁部位にはヒトと同等の構造をもつブタ僧帽弁を採用し,僧帽弁への各人工弁輪の縫合はすべて第一線の心臓外科医に実際にやっていただいた.実験の結果,すべての人工弁輪において逆流抑止効果が確認された.各人工弁輪による逆流緩和率を弁形成前後において比較したところ,シリコーン等の柔軟な材質で構成されるFlexible ringおよびCosgrove ringにおいては逆流緩和率がそれぞれ30%,26%となり,チタン等の金属により構成されるRigid ringおよびPhysio ringの逆流緩和率が18%,7%であったのに比して効果的な逆流抑止が得られた.一方,有効弁口面積の変化率を弁形成前後において比較すると,Flexible ring, Cosgrove ring, Rigid ringにおいてはそれぞれ49%,30%,31%の面積縮小であったのに対し,Physio ringにおいては30%の面積増加となった.以上の結果から,本評価装置において人工弁輪の定量的評価が可能であることが明らかとなった.また,本装置は各外科医の手術技術の定量評価ができると同時に,新しい手術手技等を試す際の手術訓練システムとしても使えると考えられた.
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