研究概要 |
肺癌は早期から全身転移をきたしている傾向が強く、TM4SF複合体異常を解明していくうえで、最も重要なことは、各病期のはっきりした細胞株の樹立である。我々は、株化細胞を樹立する際、コラーゲンゲルにマトリジェルを50%の割合で混合したものが最も効率が良いことを見つけ出していたが、これに患者血清を10%混合すると更に株化が容易であることが判明した。今回、AAH3種をこの方法で培養を行ったが、初代培養もコラーゲンゲル中では成功し、ほぼ株化に近い10代培養にまで成功した。この株を用い検討したところ、MRP-1/CD9、KAI1/CD82の異常は認められなかった。一方、PETA3/CD151は弱発現していた。次に、I期肺癌は10例で細胞株の樹立に成功し、II期肺癌はやはり9例、またIII期肺癌は化学療法を術前に行っているものを5例試みたが、壊死に陥っている部分が多く、結局4例しか樹立することができなかった。次いでIV期肺癌は転移部より標本を採取し6種の細胞株の樹立に成功した。I期では1例を除き前2者とも発現していたが、PETA3/CD151は弱発現のみを示した。II期細胞株ではKAI1/CD82が減弱しているものが5例、MRP-1/CD9が減弱しているものが1例、それに比べてPETA3/CD151は2例に強発現を新たに認めた。次に、III期肺癌では4例でKAI1/CD82のみが減弱しておりMRP-1/CD9,PETA3/CD151は発現していた。残る1例はPETA3/CD151のみ発現した。また、IV期の転移細胞株ではすべてにおいてPETA3/CD151の発現が優位を示した。これらのことから、CD9、CD82が転移抑制遺伝子としての性格を持ち、一方CD151が転移促進遺伝子としての性格を持っていることが明らかになり、これらのバランスにより転移が発生していくものと考えられた。
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