研究概要 |
悪性脳腫瘍の外科治療は腫瘍の部位および周辺脳組織に制限され,放射線治療は正常脳組織への耐線量が問題であり,したがって化学療法が治療成績の向上に期待される.しかし,脳腫瘍の化学療法において使用される抗癌剤は,クロロエチールニトロソウレア(CENU),シスプラチンなどに限られている.本研究では限られた抗癌剤を有効に臨床応用するために,抗癌剤の分子作用機序および脳腫瘍の遺伝子特性に基づいて,個々の腫瘍に最適な抗癌剤を選択的に適用する基準を検討した. CENU感受性と関連するMGMTは,脳腫瘍の多くでMGMT陽性細胞が検出され,種々の程度のCENU抵抗性であることが示された.また,MGMT陽性細胞の分布不均一性が認められ,腫瘍細胞の遺伝子発現および代謝活性,組織構築の不均一性を反映しているものと推定された.抗癌剤の分子標的および個別化治療の一環として,1番染色体短腕(1p)と19番染色体長腕(19q)の染色体解析を行い,欠失例ではACNU, VCR, PCZ,などの抗癌剤に対して効果的であり,有意に生存期間が延長している. 腫瘍の生物学的不均一性に関しては^<18>F-^<10>B-fluoroboronophenylalanine(FBPA)を応用してin vivoにおける定量性を試み,FBPAは腫瘍の悪性部分に集積し,生存期間と密接に逆相関しており,boron neutron cappture therapyの治療基準の指標になる可能性が示された. 本研究では悪性脳腫瘍において抗癌剤の分子作用機序および脳腫瘍の遺伝子特性の面からの牛物学的不均一が示され,腫瘍の不均一性に対応した抗癌剤の適応基準および投与スケジュールが重要であり,腫瘍摘出標本のほかにin vivoにおける生物学的特異診断法が今後の重要な課題である.
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