研究概要 |
昨年に引き続き、硬膜動静脈瘻の動物モデルにおける血管新生因子の関与について検討した。ラット慢性脳静脈亢進モデルを作成し慢性脳静脈亢進状態から硬膜動静脈瘻が発生する際の微小循環動態・血管の形態に関する経時的変化を検討するとともに血管新生因子の発現について調べ、硬膜動静脈瘻の成因病態について検討した。 Wister ratを用いて、硬膜硬膜動静脈瘻モデルを作成した。Sham群には、静脈洞,横静脈洞からの流出静脈右総頚動脈-外頚静脈の露出のみを行った。外科的処置の後通常の飼育を行い免疫染色群と血管撮影群の2群にわけた免疫染色群に対し、10%ホルマリンにて還流固定を行い、硬膜を含めて脳を摘出し、閉塞した静脈洞より後方で切片を作成した。一次抗体として抗ラットVEGF抗体を使用し、DABで可視化した。硬膜血管組織をホモジナイズして蛋白を抽出し、VEGF蛋白の発現をウエスタンブロット法で検出した。また、血管撮影群に対し、蛍光血管撮影もしくは造影剤による血管撮影を施行した。 その結果、ラットは吻合後60日以上の長期生存が得られた。血管撮影群において血管の形態を観察したところ、吻合後早期では吻合および静脈洞結紮以外の変化は認められなかったが、吻合後60日以降の後期においては硬膜における動静脈に短絡の所見が認められた。すなわち、静脈圧亢進状態が慢性的に持続することにより、硬膜動静脈瘻が形成されたと考えられた。抗VEGF抗体を用いた免疫染色を施行することにより、硬膜動静脈瘻が形成された部分の硬膜血管内皮における血管新生因子の発現を確認した。また、硬膜血管組織から抽出した蛋白から,ウェスタンブロット法でVEGF蛋白を検出し、コントロール群と比較して有意に上昇を認めた。VEGFの発現は、低酸素と血管腔の内圧の上昇などにより刺激されることが知られている。本モデルでは、動静脈の吻合により静脈圧が亢進しており、それにより脳還流圧が低下することで慢性的な脳虚血状態を引き起こし、VEGF発現の刺激になったことが考えられる。このようにして発現されたVEGFが病的な血管新生を促進し、硬膜動静脈瘻の発生に関わるものと推察された。
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