研究概要 |
本研究の目的は、脳静脈血行障害の発展過程の解明と治療法の開発である。今回は、脳静脈圧亢進状態での微小循環と血管新生に関する基礎的研究、特に硬膜動静脈瘻(DAVF)の病因・病態の解明と遺伝子治療の可能性について検討した。 雄SDラットを用い、Spetzlerらの方法に準じてDAVFモデルを作成し、1週間後に、10%ホルマリンにて還流固定を行い血管新生因子(VEGF)の発現を調べ、(また、他のグループで)モデル作成90日後に血管撮影を行った(実験1)。さらに、モデル作製の1週間後に硬膜を含めて脳を摘出しVEGFの発現を免疫染色により観察し、Western blotはmodel作製後1,2,3週間に脳を摘出して発現を比較した(実験2)。その結果、免疫化学組織染色では、硬膜の静脈洞近傍の硬膜血管の内皮細胞と間質に33%でVEGFの発現がみられ、脳の皮質および基底核の神経細胞に、73%にVEGFの発現がみられた。Sham群の硬膜と脳にはVEGFの発現は見られなかった。脳梗塞巣は認められなかった。血管撮影群で15匹中6匹(40%)で内頸動脈の髄膜枝からの動静脈シャントが確認された(実験1:結果)。免疫染色群では、硬膜の静脈洞近傍の血管内皮と結合組織に15匹中5匹(33%)で、脳の皮質、基底核の神経細胞に15匹中11匹(73%)にVEGFの発現がみられた。Western plotでは1週間後に最もVEGFの発現がみられ、2週間後、3週間後と発現が減少した(実験2:結果)。 本研究ではラットDAVFモデルを用いて、DAVF発現過程での脳および硬膜でVEGFの発現を確認した。以上の結果より、DAVFの発生には脳静脈灌流障害によって発現するVEGFが関与していると考えられ、遺伝子治療によりこれら血管新生因子を制御しDAVFの発現が予防される可能性が示唆された。
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