研究課題
今回我々は、効率的な脳腫瘍に対する化学療法を確立するため、ステルスリポソームの開発を行った。まずわれわれは、37℃血漿中ではリポソーム内に封入されたDoxorubicin(DXR)はほとんど放出されず、45℃血漿中でのみ放出されるリポソームをまず調整開発することができた。さらにこのリポソームはラットの静脈内に投与すると、投与後24時間経過してもまだ約10%が血中に停滞を示しており、そのステルス性も証明された。<担癌ヌードマウスモデルにおけるリポソームの体内動態>ヒト大腸癌株をヌードマウス皮下に移植した動物モデルに対し、DXR封入リポソームを静脈内投与したところ、24時間経過しても肝臓にDXR総投与量の3-10%が残留分布しており(freeDXRを投与すると0.5%の肝臓内残留にすぎない)、そのステルス性が認められた。またわれわれが開発したステルスリポソームはコントロールリポソーム(ステルス性をもたないもの)に比べ、肝臓内DXR残留率は50%に、脾臓内DXR残留率は20%に抑えられており、さらに移植腫瘍組織内には約2倍のDXR濃度を示した。これは開発したリポソームがそのステルス性を十分発揮することの証明である。本年度はさらに腫瘍に対する慢性実験をおこなった。Doxorubicin封入リポソームを投与後、温熱をかけ腫瘍の縮小を観察した。しかし辺縁温度が高すぎ、温熱治療翌日に腫瘍組織が脱落する現症を観察した。よって、加温する温度を低下させ更なる実験を計画した。またMRI造影剤であるガドリニュームをリポソームに封入して注射し、腫瘍組織を加温することにより、造影剤の組織内への流入を確認した。