研究課題
我々が臨床の場で経験する疼痛は主観的な要素が大きく、その客観的な評価は困難と考えられてきた。このことを神経生理学的に考えると、痛みの信号が途中の末梢神経や脊髄で様々な修飾を受け、最終的には脳内で情動的要素も関与した結果、不快な経験を認知するのではないかと考えられる。従って最終到達地点である脳の痛みに関する役割を分析してその機能を理解をすることにより、様々な痛みの病態を画像診断学的(Functional MRI以下fMRI)に解明しようとするものである。fMRIは傾斜磁場の掛けられるMRI撮像装置を用いてエコープランナー法で連続撮像を行い、安静時と痛みなどのタスクが掛かった状態をBOLD法で比較することでタスクに応じて活動した脳の局在を捉えるものである。画像解析にはSPM99を用いて行った。(1)健常者群の手掌に機械的痛み刺激を行うと、視床、島、体性感覚野、前帯状回などに有意な神経活動が見られた一方で、アロデニアを有する患者群では前頭葉から後頭葉にかけ広範な領域での活動が見られた。特に患者群では痛みの中枢である視床に活動性を有する症例はみられず複雑な疼痛認知機構が示唆された。(2)アロデニアのような難治性疼痛が持続するような病態では、慢性的な痛み刺激により脊髄や脳の神経細胞の痛みに対する感受性が亢進し、痛みに対する受容や情動的要素にも変化が生じていると考えられる。そこで、難治性疼痛患者に実際には痛み刺激を加えずに、患者が痛みを感じるような視覚刺激を提示し、その際に反応する脳活動を健常者と比較することで情動的側面の検討を行った。患者群にアロデニア部位を触られていると認識される映像を提示した場合、前頭前野、前帯状回、体性感覚野に有意な神経活動が観察された。これは、痛みの不快感を認知する活動パターンと推察され、痛みの情動体験として客観的に捉えられていたのではないかと考えられた。
すべて 2004
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Pain Research 19
ページ: 107-112