研究概要 |
胸腹部大動脈手術後の対麻痺は脊髄虚血に起因し、予防・治療法は確立していない.最近、脳や脊髄にあらかじめ軽い虚血やストレスを負荷しておくと,その後の強い虚血に耐性を示すことが注目されている.本研究では高気圧酸素(HBO)暴露の効果および耐性獲得機構を検討した. ラットと家兎の虚血モデルを用いた.HBO条件付けは、2.5ATA〜3.5ATA(1日1時間、5日間)で行った.遺伝子解析,蛋白解析は最終のHBO後,6,12,24,72時間経過後に行った. 家兎脊髄では短時間虚血負荷(条件づけ)後、運動神経細胞の細胞質がHSP-70陽性であった.ラットの脊髄ではHBO負荷後、glutathione peroxidase遺伝子や、hypoxia inducible factor-1(HIF-1)の発現を認めた.HBO後に前脳虚血(8分間)を加えると、海馬CA1神経細胞の生存率が高く(12時間後でピーク)、72時間後でその効果が消失した.遺伝子クラスター解析で、p75 nerve growth factor receptor(p75NGFR), CCAAT enhancer binding protein δ(C/EBPδ)の発現が著明で、RT-PCR法、Western blot法でも確認できた. 中枢神経におけるHBOによる虚血耐性誘導の機序について、従来いわれているHSP以外の因子として、p75NGF receptor, C/EBP δの関与を示唆する結果を得た.P75NGF receptorはapoptotic receptorとして考えられてきたが,一部でcell survivalの関与を示唆する報告もある.本研究結果からP75 NGF receptorによるsignal transductionの耐性への関与が強く示唆される.また、脳では炎症反応は乏しいと考えられてきたが,C/EBP δの発現と関連して、中枢神経における免疫,炎症の調節機構が耐性に関わる可能性が考えられる.
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