研究概要 |
前立腺癌の発症に遺伝的要因が関与していることが、欧米からの報告で認められている。遺伝子変化の強い関与が想定されている遺伝性・家族性前立腺癌家系に対して連鎖解析が行われ、これまで、多くの遺伝子座および3つの責任遺伝子候補が報告された。本年度の研究は、このうち、候補の一つであるRNASEL遺伝子の関与について検討すると共に、連鎖解析により日本における家族性前立腺癌の遺伝子変化について解析した。RNASELのコード部位における塩基配列の変異をSSCP法でスクリーニングした。3種類の変異をみとめた(G282A,R462Q,D541E)。このうち、D541Eの変異は組織学的悪性度、病期、罹患患者数いずれにおいても関係があり、発癌、悪性に関与していることが示唆された。次に、Sibpairによる連鎖解析を行った。53のsibpairを用い、マイクロサテライトマーカーを用いて連鎖解析を行った。この結果、1p36のD1S2667および8p23のD8S550付近にそれぞれ、Zlr=2,24,p=0.034およびZlr=2.25,p=0.037の連鎖を見出した。前者はこれまでの候補の一つであるCAPBの近郊である(1p35-36)。また後者はMSR1(macrophage scavenger receptor 1)遺伝子の存在と類似していた。本研究の結果は本邦における遺伝性・家族性前立腺癌のいわゆるhigh penetrance遺伝子の解析のはじめてのものであり、今後更に家系を増やすことにより、明らかな候補遺伝子が同定されるきっかけとなることが期待される。1p35-36はCAPBという欧米からの報告された部位と一致しており、脳腫瘍を合併する家系での前立腺癌領域との関連が示唆されている。今回は、更なる家系の家族歴の再チェックを行ったが、脳腫瘍との有意な関係は見出されなかった。次に、8p23における遺伝子候補としてMSR1(macrophage scavenger receptor 1)がこの部位に存在するために、この遺伝子の変異をdirect sequenceにて確認を行った。今のところ、明らかな変異との関係は見出されていない。しかし、coding lesionのすべての解析が終了していないので、今後さらに、この遺伝子の変異の研究は、非常に重要である。さらに、この領域ではsqualen synthaseというコレステロール合成酵素があるため、コレステロール合成酵素のアンドロゲン依存性をmRNAレベルで検討した。この結果、一部は、アンドロゲン依存性を示す可能性が示唆されている。今後、squalen synthaseを含めた、合成酵素遺伝子の変異の確認が必要であることが示唆された。
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