研究概要 |
急性前骨髄性白血病ですでに臨床効果の確認されている3酸化砒素(以下As2O3)を基本に、前立腺癌や腎癌などの難治性固形癌に対して、より低濃度で治療効果を達成できるような新規治療法を開発することが本研究の目的である。昨年度までの研究成果の要約を以下に示す。1)3種類のアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞におけるAs2O3の作用は、高濃度ではアポトーシス誘導を、低濃度では細胞増殖抑制を惹起する。2)As2O3は濃度依存的にp38,JNK, caspase-3を活性化する。3)抗酸化剤であるN-acetyl-L-cysteineはp38,JNK, caspase-3の活性化と活性酸素の産生を抑制することでAs2O3で誘導されるアポトーシスを抑制する。 本年度は、上記の特に3)の結果に着目し、radical scavenging systemを抑制することで低濃度のAs2O3で効率的にアポトーシス誘導を達成するか否かを検討した。その結果、1)L-buthionine-sulfoximine (BSO)とAs2O3の併用療法は前立腺癌や腎癌、乳癌、肺癌細胞などに著しい効果を示すと同時に、正常細胞にはほとんど毒性を示さないことが確認された(Cell Death Differ 2004)。2)腎癌細胞においても同様の効果が確認された(Int J Oncol 2004)。3)As2O3とBSOは同時投与が最も効果が高く、この併用療法により細胞内のグルタチオン濃度を枯渇させ、GSTの活性を低下させる。現在も引き続き、免疫不全マウスを使用したin vivo実験でAs2O3とBSOの併用療法の効果と毒性の解析を終了した。
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