1)脊髄損傷と脳梗塞後の排尿状態と腰脊髄アミノ酸濃度の変化:ラットの下部胸髄を切断すると腰仙髄のグリシンが増加し尿閉となったが、その後徐々に排尿反射が出現し、腰仙髄グリシン濃度は低下した。脳梗塞ラットでは頻尿となり、大脳のグルタミン酸が低下し、脳幹から腰仙髄のグリシンが低下したが、慢性期には頻尿は改善し、腰仙髄のグリシンのみが回復した。 2)腰仙髄グルタミン酸およびグリシンニューロンの相互関係と排尿に及ぼす役割:ラットの腰仙髄領域の髄腔内にグルタミン酸を投与すると腰仙髄中のグリシンが増加し、グルタミン酸受容体遮断薬を投与すると排尿反射が抑制されてグルタミン酸とグリシンが減少した。グリシンを髄腔内に投与するとグルタミン酸が減少し、排尿反射が抑制された。グリシン受容体遮断薬を投与すると排尿反射が促進された。同様の結果は慢性脊損ラットでもみられた。急性脊損ラットの髄腔内にグリシン受容体遮断薬を投与すると膀胱収縮が起こった。 3)吻側橋網様核の排尿抑制機序と腰仙髄アミノ酸濃度の変化:電気刺激で排尿抑制に働く吻側橋網様核にカルバコールを注入すると膀胱収縮は30分以上消失して基線圧が徐々に上昇し、腰仙髄のグルタミン酸の増加傾向とグリシシの増加があった。ノルアドレナリンの注入では3-8分間膀胱収縮が消失し基線圧に変化はなかったが、腰仙髄のグルタミン酸の低下とグリシンの増加傾向があった。頻尿治療薬である塩酸フラボキサートの注入では膀胱収縮が約10分間消失し基線圧に変化はなかったが、腰仙髄のグルタミン酸の低下とグリシンの増加があった。 4)以上の結果から、上位中枢からの排尿調節は腰仙髄の興奮性グルタミン酸ニューロンと抑制性グリシンニューロンの活動性の調節によることが考えられた。
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