脳脊髄障害に伴う腰仙髄内神経伝達物質の経時的変化と下部尿路機能の回復機構

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14370516
• 研究機関: 琉球大学
• 研究代表者: 菅谷 公男 琉球大学, 医学部, 助教授 (20179120)
• キーワード: グリシン / GABA / 脳梗塞 / 脊髄損傷 / 橋網様態 / 排尿反射 / 直腸膀胱抑制反射

研究概要

1)橋網様体の排尿抑制効果と腰仙髄アミノ酸濃度の変化:正常ラットの橋網様体へカルバコールやフラボキサートを注入すると膀胱収縮は抑制され、腰仙髄中グリシン濃度が上昇した。頻尿を呈する脳梗塞ラットでは腰仙髄中グリシン濃度は低下していた。脳梗塞ラットの橋網様体へのカルバコールやフラボキサートの注入は膀胱収縮を抑制し、腰仙髄グリシン濃度を上昇させたが、これらの変化は正常ラットより弱かった。したがって、橋網様体ニューロンは腰仙髄グリシンニューロンへ投射し、排尿抑制に働くと考えられた。また、脳梗塞時の頻尿の原因として、排尿抑制に働く橋網様体ニューロンへの興奮性入力の低下が考えられた。
2)グリシンとガンマアミノ酪酸(GABA)の排尿抑制効果:ラット直腸拡張刺激は膀胱収縮を抑制した。この状態で脊髄髄腔内へグリシンかGABAの受容体遮断薬を投与すると膀胱収縮は回復したが、収縮圧は完全には回復せず、収縮圧を回復させるには両方の遮断薬の同時髄腔内投与が必要であった。一方、頻尿を呈する慢性脊髄損傷ラットでは直腸拡張刺激による膀胱収縮の抑制はグリシンかGABAの受容体遮断薬で完全に回復できた。グリシンまたはGABAの脊髄髄腔内投与、静脈内投与や経口投与は排尿反射を抑制したが、グリシンとGABAの同時投与は極めて低用量で排尿反射を抑制した。したがって、グリシンとGABAは相乗的に排尿を抑制することが判明した。
3)橋網様体刺激と末梢刺激による排尿抑制機序の相違:ラット橋網様体へのカルバコール注入では腰仙髄中グリシンとグリシンの前駆物質であるセリンが増加したが、直腸拡張刺激や肛門電気刺激による排尿抑制時には腰仙髄中グリシンは増加したがセリンの増加はなかった。したがって、橋網様体から腰仙髄への投射はグリシンニューロンの代謝自体も促進するグルタミン酸による投射である可能性が考えられた。

研究成果

• [文献書誌] Sugaya K, Ogawa Y, Hatano T, Nishijima S, Matsuyama K, Mori S.: "Ascending and descending brainstem neuronal activity during cystometry in decerebrate cats."Neurourology and Urodynamics. 22・4. 343-350 (2003)
• [文献書誌] Miyazato M, Sugaya K, Nishijima S, Ashitomi K, Hatano T, Ogawa Y.: "Inhibitory effect of intrathecal glycine on the micturition reflex in normal and spinal cord injury rats."Experimental Neurology. 183・1. 232-240 (2003)
• [文献書誌] Nishijima S, Sugaya K, Miyazato M, Ashitomi K, Morozumi M, et al.: "Changes of bladder activity and glycine levels in the spinal cord and serum after spinal cord injury in rats."Biomedical Research. 24・4. 165-171 (2003)
• [文献書誌] Nishijima S, Sugaya K, Miyazato M, Ashitomi K, Morozumi M, Ogawa Y.: "Relationship between bladder activity and amino acid levels in the central nervous system in rats with cerebral infarction"Biomedical Research. 24・4. 173-180 (2003)
• [文献書誌] Miyazato M, Sugaya K, Nishijima S, Shimabukuro S, Ashitomi K, Ogawa: "Intravenous glycine inhibits the micturition reflex in normal and spinal cord injury rats."Biomedical Research. 24・6. 285-289 (2003)
• [文献書誌] Miyazato M, Sugaya K, Nishijima S, Ashitomi K, Ohyama C, Ogawa Y.: "Rectal distention inhibits bladder activity via glycinergic and GABAergic mechanism in rats."Journal of Urology. 171・3. 1353-1356 (2004)